K's Atelier

個人的な学習記録

「容易に」

数学書の「容易に」「明らかに」は,演習問題だ。著者によれば容易にできるはずなので,書き下してみる。
佐武一郎「線形代数学」p.241

一つの群Gが与えられているとする。Gの(K上の)ベクトル空間Vにおける(線形)表現とはGの各元gにVの正則一時変換\rho(g)を対応させる対応で,
(1)  \rho(gg') = \rho(g)\rho(g')
(g,g' \in G)
を満たすものをいう。(1)から容易に
 \rho(1) = 1_v
 \rho(g^{-1}) = \rho(g)^{-1}
を得る。

とあるので,どういうことかを書き下す。
(1)のgに1を代入する。
 \rho(1\cdot1) = \rho(1)\rho(1)
1\cdot1は1なので,
 \rho(1) = \rho(1)\rho(1)
となる。
この式は,\rho(1)同士をかけ合わせても\rho(1)になることを表している。つまり \rho(1)単位元1_v

もう一つの方も,まずは(1)式に g, g^{-1}を代入する。
 \rho(g \cdot g^{-1}) = \rho(g) \rho(g^{-1})
ところで, g \cdot g^{-1} = 1(逆元をかけると1になる。それが逆元の機能)。なので,
 \rho(1) = \rho(g) \rho(g^{-1})
 1_v = \rho(g) \rho(g^{-1})
これは,\rho(g)\rho(g^{-1})を掛けると単位元になることを表している。
つまり, \rho(g^{-1})\rho(g)^{-1}(\rho(g)の逆元)と同値。

こんな「容易」とされることであっても,代数の証明のコツを知らない人にとっては壁になる。
あと,「容易に」とは言うが「そのページに記載された情報だけでできる」というわけではない。
このページの話で言えば,「単位元」「逆元」を証明に使う方法は前提知識になっている。
(この本は線形代数初学者向けではない,と言われるのはこの辺りが原因か。p.43にちょっとだけ群の話があるけどこれだけでは初学者には無理だろう)

著者の前提と読者の認識がずれていると,容易どころかいつまで経っても平行線,ということがある。
自分が講師をするときには本当に気を付けたいところ。

数学の分野によって証明のコツが違うので,慣れるまではいろんな情報源を得ながらやるのが良い感じ。
昔と違っていまはYoutubeやWebサイトにいろいろと解説記事がある。