K's Atelier

個人的な学習記録

損害保険システムの要件定義のための文献調査

損害保険システムの要件定義に関わることになった。
損害保険システムはよさげな情報が見つからない。
業界の再編に伴って,ただでさえ複雑な商品構成がさらに混然一体となっているようだ。
他システムとの接続も,金融システム特有の複雑さ。
Web上のバラバラな情報では一貫した理解は望めないので,基本の書籍調査を行う。

知りたいこと

  1. 一般的な業務機能
  2. 業務機能ごとの業務フロー
  3. 会社間の関係,行政,海外組織との関係(システム,業務連携の観点から)
  4. よくあるUser Interface,帳票
  5. 基幹システム構成

業界一般

できるだけ,「損害保険システム」が出ており,かつ業務の話も扱っているものが望ましい。

[1] 株式会社トムソンネット,「図説損害保険ビジネス[第4版]」,2022年

「第8章 損害保険の業務とシステム」に,非常に概要的ではあるが,要件定義につながる情報が記載されている。
この本は損害保険会社の要件定義に参画するときに,ビジネスの概要を掴むのによいかもしれない。2022年出版なので,最近の状況を踏まえた情報を俯瞰できる。

[2] 菊池浩之,「図解損害保険システムの基礎知識」,2012年

この本は,損害保険の基幹システムを詳細に扱っている。システム関係者が損害保険会社の基幹システムに関わるときにはほとんど唯一の教科書。残念なのは2012年出版なこと。現在稼働しているシステムとは基盤技術的にはかなり変わっている。ただし,金融システムは長期稼働が基本だし,基幹システムなので基本構造はそこまで変わらない。

[3] 森和彦,「損害保険代理店の教科書」,2020年

これは私の想定とは違った。私は代理店の業務の流れを想定していた。業務フローを作りたかったのだ。本書は,損害保険代理店の保険営業の心構えが書かれている。[2]p.49の「第5項 代理店における代理店オンライン入力」に,"したがって,事務フローらしきものは存在しません。"と記載されているが,その通りな感じである。営業の人はいかに契約を取ってくるかが勝負。システムはそのための道具に過ぎないということか。代理店員にも,契約者にも負担をかけないシステムが大切だということ。

[4] 船井総合研究所,「中堅・中小企業のための「DX」」,2021年

p.156に,「経営ダッシュボードのサンプル集④「保険代理店」」の記載がある。が,これは営業成績のダッシュボードでしかなかった。本書は,ジャーニーマップ形式でDX化できる業務を考えていく,という体裁だ。いろいろな業界の事業概要が俯瞰されている。きちんと追加調査すればかなり業務要件に強くなれるはず。

要件定義技法

[5] IPA,「ユーザのための要件定義ガイド第2版」

「第5章 システム化要求定義(SR)における問題と解決の勘どころ」「第6章 要件定義マネジメント(RM)における問題と解決の勘どころ」あたりが参考になる。本書は,要件定義によく使用されるドキュメントを網羅した上で,陥りやすいミスと対策をまとめてある。淡泊な文章で,通読するものではないが,立ち止まって考えなおすには良い。なにしろ本書で扱っているような「発注者」「受注者」が出てくる要件定義は海外の文献を探しても参考にならない。要件定義最大の制約は「契約」だ。「要望を出す人」と「要望を実現する人」がいることが,要件定義の「要」である。このとき,契約が国内法と関係しているので,海外情報が当てはまらないのだろう。

[6] 白川 克,「システムを作らせる技術」,2021年

FM(ファンクショナリティ・マトリクス)というツールを紹介している。が,ツールに気を取られずに本文を楽しんだ方がよい。今までに要件定義に関わったことのある人は振り返りに使えるはず。なかなかこのレベルの「ソフトな文体なんだけど振り返りできるくらいの濃度の内容がコンパクトにまとまっている」感じの要件定義本が見つからないので貴重。特に業務要件定義は「人間が大事」。技法にこだわりすぎない。

[7] IPA,「非機能要求グレード」

システム構築の上流工程強化(非機能要求グレード) | アーカイブ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
確かによくまとまっている。大規模プロジェクトでは役に立つんだろうな,という気がする。ただ,非機能要求グレードも使いこなすには訓練が必要だ。

書籍による文献調査の,Web検索に対するメリット

書籍調査の最大のメリットは「検索したいものの関連知識が得られる」ことに尽きる。Web検索だと自分が気が付いたことからしか連想できない。Web検索で行き詰ったら図書館にいくのが良い。紙の本の方がディスプレイよりも目に優しいし。