K's Atelier

個人的な学習記録

演習4.1,永井保成,「代数幾何学入門」

Weierstrassの割り算定理を証明せよ,という演習問題。こういうことかな,というスケッチを示す。

問題文の記述から,Weierstrassの準備定理を適用すると,gはyについてm次のWeierstrass多項式である。

 \displaystyle
g(x_{1}, \ldots ,x_{n},y) = y^{m} + a_{1}(x_{1}, \ldots ,x_{n})y^{m-1} + \cdots + a_{m-1}(x_{1}, \ldots ,x_{n})y + a_{m}(x_{1}, \ldots ,x_{n})

これをヒントに,gを以下のようにまとめられればよい。

 \displaystyle
g = u \cdot f + \sum_{j=0}^{m-1}r_{j}y^{j}

余りを移項する。gから余りを差し引けば,きれいに割れる。問題文から,この移項をした式もWeierstrass多項式である。このgの整理が本演習の肝のようだ。

 \displaystyle
g - \sum_{j=0}^{m-1}r_{j}y^{j} = u \cdot f

ところでp.38にgの重み付き斉次分解の式がある。

 \displaystyle
g = g_{(0)} + g_{(1)} + \cdots + g_{(\nu)} + \cdots

このgの斉次部分を展開していくと,

 \displaystyle
g_{(m)} = y^{m} \\
g_{(m+1)} = u_{(0)}f_{(m+1)}  + u_{(1)}f_{(m)} \\ 
g_{(m+2)} = u_{(0)}f_{(m+2)}  + u_{(1)}f_{(m+1)} + u_{(2)}f_{(m)}

という形でどんどん続いていく。本文中にも書かれているが,左辺の次数はm-1以下である。なので,右辺の項のうち,m+1以上の項を集めたものが全体としての余りになるのではないか。

感想

上記の文中「m+1以上の項の次数はm-1以下」という分かりにくい記述になっているが,これはmを中心として項を整理した都合のようだ。代数学の分野では,「うまいこと並べ方を整理してまとめる」というテクニックがそこら中にあるようで,著者の意図が分からないと「なんでこんな添え字付けなんだ?」となる。

Weierstrassの割り算定理は,スキーム論を扱う本(Bosch"Algebraic Geometry and Commutative Algebra"など)では出てこない。著者が第4章でこの定理を入れてきたのは,一つは「高校数学との連続性」を見せたかったのではないかな,と思う。具体的な多項式の割り算は,高校数学の範疇だからだ。もう一つは,本書の前半が代数幾何学の歴史的な側面を持っているからだろう。

どういうわけか,Weierstrassの割り算定理は英語文献しか出てこない。本書のような帰納的な証明の記述が見つからない。 6.2: Weierstrass Preparation and Division Theorems - Mathematics LibreTexts

Wikipadiaで見てみたらドイツ語文献に行き当たる。そろそろどろ沼化してきた。 ワイエルシュトラスの予備定理 - Wikipedia