K's Atelier

個人的な学習記録

杉浦光夫,清水英男,金子晃,岡本和夫「解析演習」

マセマの「演習微分積分」は全部計算問題。とはいってもε,δ論法の記述もさせるし,後半は3重積分とか出てきて,丁寧に計算を追っているので好感度高い。

一方で,「数学科の数学はそういうもんじゃない」とも言われるようだ。自分は工学系なので計算ができるだけで嬉しいのだが,ちょっと数学科の雰囲気も味わえるかな,と思って解析演習を手に取ってみた。

例題1.1。「有界単調増加列は収束する」という事実から,1/nの極限が0になることを確認するという問題。

マセマでεδの計算記述を見てきた私は,何をすればいいのかでいきなり躓いた。

結局これは, \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} = 0自体を計算したいのではなく,「nが無限大に持っていけるということから,Nは有界ではないと言える。結果として極限が0になる」という話をしたい,ということに気づくのにまず時間がかかる。

あと,「とくに \varepsilon = 1としてみると・・・であるから矛盾」というのも,「何の主張に対して矛盾なのか」が分かりにくい。
 M極限値と仮定したのに, M \lt n + 1という式が出てきたことに対し,「" n+1"という値は, Nに含まれる。極限値 Mより大きい値が Nの中にあるってことを表すわけだから," M極限値"という主張と M \lt n + 1が矛盾する」ということだ。

こういう文章は,「何と何がどういう理由で矛盾するのか」を言い直すべきだと思ってしまう。他の数学書背理法の説明も,たいていは対象が判別しにくい書き方をしているので,昔の文章からの伝統なのかもしれない。最近出てきた「分かりやすい」と言われる数学書は,「●●を示せばよい。」から始まっていたりする。証明の記述も徐々に改善されてきていると思う。

こういうことが数学科の数学の要素なのだろう。そりゃ高校数学とはわけが違うし,計算得意な人が挫折するという話も分かる。

なんて,文句みたいな書き方をしてしまったが,「解析演習」はこれはこれで楽しい。良い説明を考えながら読んでいけば,一生遊べる。